「舞妓さんちのまかないさん」に、なぜ「ちごもち」は登場したのか

UPDATE:
2023.03.10
  • #お菓子の誕生秘話

 きっかけは一本の電話から始まりました。2021年8月「ぶんぶく」という会社からです。会社に「ちごもち」を送って頂けないかと。

 群馬県民にとって、ぶんぶくといったら上毛かるたのこの一枚。


 「たぬき」です。私たちの第一印象は「詐欺」ではないかと疑い、その思いを正直にメールでお伝えしました。すると、企画書を送りますので、是非読んでみてください、とご返信が届きます。開封して驚きました。


 なんと、原作100万部超えのベストセラー作品の実写ドラマ化。本物の企画書です。検索したところ「分福」様は是枝裕和監督を中心とした映像制作会社でした。詐欺を疑ったことを心からお詫びしました。そして、私たちにお声がけいただいたことに感謝し、もしお役に立てるならば、どんな協力も惜しまないことをお伝えさせていただきました。

 

 原作に「ちごもち」は登場しません。なので、私たちは物語の中に、なぜ、どのように、登場するのか、まったくわかりませんでした。(実際、撮影直前までわかりませんでした)
当初「お取り寄せ」をご検討されていたようでした。ただ「ちごもち」は、お餅で包まれた苺が呼吸をし続けているため、作り立てと翌日では、見た目も味も変わってしまいます。このドラマは「食」が大切なテーマでもあることから、私たちは「現場で作らせていただき、出来立てを提供する」ことも、選択肢の一つに加えて頂けないかとお願いしました。

 

 「舞妓さんちのまかないさん」は1/12に公開されました。私はお店がお休みになった1/18に全9話を一気に拝見しました。「ちごもち」が登場するシーンは第7話の中にあり、時間にして1分程度です。たった1分のシーンにも関わらず、私たちは京都の撮影所で実際に作り、出来立てを提供する機会を頂戴いたしました。そんな細部にまで「本物」であることにこだわりぬいたチームに参加できたことが本当に嬉しく、撮影当日は祈るような気持ちで作らせていただきました。

 現場で作らせて頂けただけでも十分に光栄な体験。そんな私たちに「ちごもちの登場シーン、見学なさいませんか」とお声がけいただきました。祇園の街並みがまるごと緻密に再現されたセットの中、監督のモニターの真後ろで、息をのんで撮影を見守りました。本編では1分程のシーンですが、実際には7テイク、30分もかけて丁寧に撮影がなされていました。7回目も、まるで初めて食べるように美味しそうに召上って下さった女優さんの演技の素晴らしさに心打たれる中、OKの声。その後、私たちは「今回の撮影のために、群馬県から微笑庵さんが参加してくださいました」と紹介され、ちごもちがスタッフの皆さんにも振舞われ、拍手が沸き起こりました。神聖な撮影現場の緊張感の中、記念写真を撮ることなど失礼に当たるのではと思い、証拠写真は一枚もありません。しかしこの貴重な経験は、あの現場の出来事は、一生忘れることのできない奇跡の刻でした。

 

 本作は日本だけでなく、6か国語の音声、32か国語の字幕対応がなされて、全世界に向けて公開されました。作品の感想は、元マイクロソフト日本法人社長、成毛眞さんをして「この数年間で海外ドラマも含めてナンバーワン」と激賞されています。是非、成毛さんのご感想を読まれたうえで、一人でも多くの方に本作をご覧いただきたいと思っています。